<PPについて>
○PPの内容は安全性に限らない

 PP(Prerequisite Program=前提条件プログラム)はHACCPを運用するための“土台”になるプログラムである。つまり、HACCPを円滑に導入・運用できるように種々の条件を整備するプログラムで「HACCPシステムの基礎となる作業上の条件を取扱う、適正製造基準(GMP)を含んだ手順である」と定義される。PPがカバーする範囲はHACCPよりも相当に広く、必ずしも安全性に限ったプログラムだけではない。品質あるいは生産効率に関するプログラムが含まれるかもしれない。ただし、PPの多くの項目はすでに工場で管理されているはずである。

 工場内で起こり得るすべての危害要因をHACCPで扱おうとすると管理が膨大になってしまう。そのためPPができていない施設がいきなりHACCPに取組もうとしても安全な食品は生産できないだろう。米国では水産物と食肉・食鳥肉でHACCPが義務化されているが、その規制においてもPPの考え方は取り入れられている。
<GMPについて>
○GMP(適正製造基準)とは

 米国ではFDA(食品医薬品局)がGMPを法的に規制している。これはcGMP(現行適正製造基準)と呼ばれており、PPの大部分に相当する(PPにはcGMP以外にも顧客からの苦情の管理、原料から最終製品までのトレーサビリティ・プログラム、サプライヤー認証プログラム等も含まれる)。

 GMP(Good Manufacturing Practice=適正製造基準)を整備する主目的は「製品が汚染されないようにすること」に集約される。この場合の「汚染」というのは安全性のみに限ったものではない(例えば米国のcGMPの中には、FDAでは安全性には必ずしも直結しないであろう昆虫の死骸等に関する基準「Defect Action Level(欠陥取締り基準)」等も存在する)。

 GMPが示す内容は非常に大雑把で、また「具体的にどのように実現するか」という手順までは示されていない。FDAのcGMPの項目も多岐にわたり、FPI(全米食品加工協会の教育機関)では下記の8項目に分類している。下記以外の分類方法も様々に存在する。

1.工場とその周辺、2.衛生施設・手洗い設備、3.工場内の設備(装置)・器具、4.原料の管理、5.保管と流通、6.生産のコントロール、7.従業員トレーニング、8.欠陥取締り基準(Defect Action Level)
○カナダではPP=GMP

 ちなみにPPは1999年にカナダの農業食糧省が開発したコンセプト※である。カナダではPP=GMPとして位置付けられている。

※カナダの食品安全推進プログラム(通称「FSEP」)では下記の6つの概要が前提条件プログラムとして示されている(出典:食品安全推進プログラム、Vol.3、1995)。
  1. _プレミス(premises):建物外部、建物内部、照明と換気、廃棄物処理、衛生的な施設、水/蒸気/氷の品質と供給
  2. 設備(equipment):デザインと設置、食品接触面 、設備の保守、補正(calibration)
  3. 回収(recalls):回収システム、製品コード流通 の記録
  4. 輸送と保管:(transportation and storage):車両、温度コントロール、受け入れる材料の保管、最終製品の保管、食用に適さない化学品の保管
  5. 従業員(personnel):技術的教育、健康および衛生の教育、衛生規範
  6. サニテーションとペストコントロール(sanitation and pest control):サニテーションプログラム、ペストコントロールプログラム
<SOPとSSOPについて>
○SOPとは
 PPを適切に管理していくには文書化した作業標準手順(SOP=Standard Operating Procedures)の整備が必要である。手順を定めておかないと従業員が勝手な判断で作業をしてしまう。また、文書化したSOPを従業員に遵守させる方法は、従業員訓練を徹底するしかない。

○GMPは「目標」、SOPは「手順」
 GMPは一定した品質の製品を生産するためのガイドラインである。つまり、GMPとは管理の目的や目標を示したもので、それを実現するための方法は各工場に任されている。SOPは各作業で何をどのように行うかを具体的に示した手順である。つまりSOPとGMPとは別物である。
 例えば「設備を衛生的にしなさい」等と目標を示すのがGMPであり、そのための具体的な方法を示したものがSOPである。SOPでは、目的、方法、記録の付け方、検証方法、担当者等を細かく決めておかなければならない。

PP管理のためのポイント
 1._SOPの文書化
 2.従業員のトレーニング
 3.文書にしたプログラムの遵守の検

 証とプログラムの適切さの検証
○SSOPとは
 SSOP(Sanitation Standard Operation Procedure=衛生適正作業手順)とはどのようにクリーニングやサニテーションするかの手順である。
 USDA(米国農務省)は食鳥・食鳥肉のHACCPを義務化する1年前にSSOPの文書化を義務化している。製品の直接汚染を防止するクリーニングの1.方法、2.担当者、3.頻度の3つを決めなければSSOPとして認められない。

米国の食肉・食鳥肉のサニテーションに関する基準
 食肉・食鳥肉を含む製品を生産する工場はUSDAの管轄下にある(水産物HACCP規制はFDAの管轄)。USDAは1999年、GMPに類するものとして「サニテーションに関する成績基準(Sanitation Performance Standard)」を設けた(例を表1、2に示す)。そこで定められた成績基準を達成できるのであれば、その方法は各企業に任されている。
 ちなみに、米国では食肉・食鳥肉工場約6,500工場に対して約8,000名の検査員がいる。と畜場には必ず検査員が常駐して、と体の病気の検査やふん便汚染の検査を行っている。加工工場では1日に1回の巡回だったり10日に1回の巡回だったりするが、いずれにしても検査員の数は十分と言える。成績基準が規制される以前は、検査員は清掃の方法や頻度等について細かく指導していたが、成績基準が規制されて以後は(方法ではなく)結果を重視する検査に変わりつつあるようだ。

○FDAがモニタリングを要求するSSOPの8項目
 FDAの水産物HACCP規制では、SSOPの文書化は義務(shall)とはしておらず、推奨(should)としている。しかしながら、2001年1月に発表されたジュースのHACCP規制では、SSOPの文書化が義務化されている。SSOPを文書化しなければならないのは、水産物HACCP規制でモニタリングを義務化している下記の8分野と同じである。
  1. _水の安全性:食品または食品と接触する表面 と接する水または氷の製造に使用される水の安全性
  2. 食品の接触面:器具、手袋および外衣を含む、食品と接触する表面 の状態と清潔さ
  3. 交差汚染:不衛生な物から、食品、食品包装材料ならびに器具、手袋および外衣を含むその他の食品と接触する表面 への交差汚染の予防。また、生原料から加熱調理した製品への交差汚染の予防
  4. 手洗い設備:手洗い、手の消毒、トイレ設備の維持
  5. 製品の汚染防止:潤滑油、燃油、殺虫剤、洗剤、消毒剤、凝縮水ならびにその他の化学的、物理的、生物的汚染物質で食用不適になることから、食品、食品包装材料および食品と接触する表面 を防護
  6. 毒性物質:有害化合物の適切な表示、貯蔵および使用
  7. 従業員の健康状態:食品、食品包装材料および食品と接触する表面 に微生物汚染をもたらすことになる作業者の健康状態のコントロール
  8. 食品工場からの有害小動物の駆除
<PPとHACCPについて>
○HACCPとPPの違い

 HACCPとPPで同じような内容を管理することもあるので、その違いを対照させておく。

〈HACCP〉1.食品の安全性のみ取扱う、2.個々の製品、個々のラインで異なるHACCP計画が組み立てられる、3.CL(critical limit=許容限界)を逸脱した場合は、(安全性に直接影響するので)必ず是正措置(corrective action)をとる

〈PP〉1.直接は安全性に結びつかない要件(品質や衛生状態等)も取扱う、2.特定の製品、特定のラインを扱うのではなく、工場全体を対象とする、3.逸脱が起きても、必ずしも食品の安全性に影響するわけではないので修正(correction)で済ませることができる

例:ペストコントロール(PPで管理)において、1回マウストラップの確認を忘れたとしても安全性に直接的な影響はないかもしれない。しかし、加熱工程(HACCPで管理)のモニタリングで加熱温度の逸脱が起きれば、それは安全性に直接影響する。そのため是正措置を取らなければならない。

〇PP管理は危害の起こりやすさに関係する

 HACCPで扱う項目とPPで扱う項目を、両方とも同じように管理しようとすると、記録や書類が膨大になり、とても管理しきれなくなる。どの危害要因をHACCPで扱うかの見極めが非常に重要である。PPがどの程度管理されているかは、最終的には危害の起こりやすさに関連してくる。PPの重要性については、HACCPの原則1「危害要因分析」を行ってみるとよく分かる。

 米国で魚介類のHACCP規制がなかなか進まなかった原因の1つには、HACCPにばかり気を取られて、PP__特にサニテーションの部分_がきちんとできていなかったことが挙げられる。PPで扱う項目は多岐にわたるが、製造現場では最初はサニテーションに関すること__その中でも「どうしてもやらなければならない項目」をピックアップして、その作業について必ず記録を付けるようにすることから始めればよいだろう。

○PPはHACCPとは別々に管理する

 PPはHACCPプログラムとは別々に管理するのが一般的である。それぞれ別の部署で管理している企業もある。そうしなければプログラムが複雑になり過ぎて管理しきれなくなるためである。PP項目のすべてを現場(生産部)で管理するのは非常に困難である。そこでPPの管理については、項目に応じて管理しやすい部署が管理すればよい。緊急度に応じてPPをレベル付けし、低レベルと判断された項目については生産部以外の所管とするやり方もある。ただし、食品接触面のサニテーション等は生産現場の担当者が行うべきだろうし、HACCPのモニタリング等は必ず現場のオペレーターが行わなければならない。