日本HACCPトレーニング・センター(JHTC)とは?

1. 日本HACCPトレーニング・センターの活動趣旨

米国のHACCPは法的強制力を持ち、営業者の規模の大小を問わず、食品の生産・製造に携わるあらゆる人々はHACCPを正しく理解、実行しなければなりません。 ただ、食品といっても分野は多岐にわたり、全米のすべての関係者にHACCPを正しく理解させ実行させることは口で言うほど容易ではありません。 また自主管理の手法であるというHACCPの性質上も、もはや行政対応の範囲を超えるものになっています。

そうした状況下、米国では積極的なHACCPに関するトレーニング・プログラムが実施されています。 FDA(米国食品医薬品局)をはじめとする行政機関、大学・研究機関、民間機関などと同時に、The International HACCP Alliance(国際HACCP同盟)、The National Seafood HACCP Alliance(全米水産HACCP同盟)がNACMCF(The National Advisory Committee on Microbiological Criteria for Foods=食品微生物基準全米諮問委員会)のガイドラインに沿ったカリキュラムでHACCPトレーニングを行っています。それらを通じてHACCPの周知徹底を図ることが重要だと判断しているからです。

日本においても米国同様、今後さらにHACCPを採用する食品分野が拡大していく中で、あらゆる食品企業が食品の安全性を確保していくことを最大の目的に、正しいHACCPをフードチェーンの始まりから終わりまで定着させていくことが不可欠です。 そのためには、講師養成を含むHACCPのトレーニングを行う機関あるいは組織の裾野を広げ、HACCPに関する教育活動を増強していく必要があります。 もちろん、その機関あるいは組織は正しいHACCPを教授できるものでなければなりません。

日本HACCPトレーニング・センター(平成11年5月22日発足、理事長・田中信正新潟薬科大学教授)では、コーデックス委員会およびNACMCFのガイドラインに沿った3日以上のワークショップ(トレーニング)を行っています。 これは、The International HACCP Alliance(国際HACCP同盟)やThe National Seafood HACCP Alliance(全米水産HACCP同盟)、米国食品加工協会(National Food Processors Institute)、カナダのGuelph Food Technology Centre(グエルフ・フード・テクノロジー・センター)など国際的に認められたカリキュラムに沿った内容のワークショップです。 そこに国内の食品現場の情報を組み込み、より実務的は内容でHACCPチームのリーダーとなるHACCPコーディネーターとインストラクターを養成していくことを目的とします。

本会は、HACCPワークショップ等に関しては、カナダ、アメリカ等の海外のHACCP教育機関のみならず、厚生労働省および農林水産省など、国内の衛生行政機関等の助言を受けながら計画し、実行していくことと致しております。

2. 日本HACCPトレーニング・センター設立の経緯

月刊HACCPを発行する(株)鶏卵肉情報センターは、1996年から1998年に5回にわたり、カナダのGFTC(Guelph Food Technology Centre ; グエルフ・フード・テクノロジー・センター)の専門講師を招き、あるいはカナダに出向いてHACCPトレーニング研修を開催しました。 そこでの受講者は110名にのぼり、現在も食品衛生分野において非常に活躍されています。

そしてさらに1999年2月下旬には米国ワシントンDCの米国食品加工協会(National Food Processors Association)において国際HACCP同盟(The International HACCP Alliance=IHA)認定のTrain-the-Trainer/HACCP Course(HACCPリード・インストラクター養成コース)の1回目を開催。 このときは21名の方に受講していただきました。 その後、それまでワークショップを受講された皆様方から「正しいHACCPを日本に普及するための組織づくり」の重要性について要望を多数頂いたため、「第1回Train-the-Trainer/HACCP Course」受講者の方々を中心に「日本HACCPトレーニング・センター」(JHTC ; Japan HACCP Training Center)という組織を1999年5月22日に発足させました。 そして従来、(株)鶏卵肉情報センター主催で行ってきたHACCPトレーニングを「日本HACCPトレーニング・センター」の業務として継続・発展させながら、HACCPに関連する様々な実践的ワークショップによるトレーニングを展開しております。

本センターの理事長には、米国ウィスコンシン大学食品研究所で研究室長を務め、サイエンティストとして食品安全性の研究に長年当たられ、現在、新潟薬科大学の教授としてご活躍の田中信正氏に就任していただいております。

これまでにHACCP実務者を養成するためのコーディネーターのコースが11回、インストラクターを養成するトレーナーコースが6回、「検証と科学的証明」に焦点を絞った上級コースが2回開催されています。 また2002年5月には東京で食品安全性に関する国際シンポジウム「21世紀の食品安全性確保の手段;国際的な視野で考える」も開催するなど様々な形で正しいHACCPの普及に力を注いでおります。 現在(2005年2月7日)の会員数は417名(リード・インストラクター69名、上級コーディネーター5名、コーディネーター343名)となっております。 さらに今後は、HACCP導入前のPP(Prerequisite Program ; 前提条件プログラム)構築に重点を当てた業種別 (一般食品工場、厨房、農場など)ワークショップや、トップマネジメントが知っておかなければならないHACCPの知識を学ぶエグゼクティブ・コースなどの教育プログラムを順次スタートいたします

3. 日本HACCPトレーニング・センターの運営について

日本HACCPトレーニング・センターは、国際的に通用する正しいHACCPを日本内外に普及することを目的とした非営利的な任意団体です。 本会は、HACCPワークショップおよびインストラクター養成(“Train-the-Trainer”)コースを修了した者、あるいはそれと同等以上の理解度と知識、経験を有すると理事会が認めた者により構成されています。

本会の活動内容は理事長、副理事長、常務理事、専務理事、理事、監事からなる役員により運営されています。理事会での決定に従い専務理事が業務を執行します。

実際の事務作業については、事務局である(株)鶏卵肉情報センター・東京支社が行ないます。主な業務は(1)ワークショップやセミナーといったHACCP実施上の教育・訓練に関わる講習会の開催、(2)HACCPワークショップに関する修了証の発給・授与、(3)本会認定委員会が認定した者に対するコーディネーターおよびリード・インストラクターの認定書、会員証の発給、(4)その他、正しいHACCPの普及等を目的にした会員相互の情報交換の場等の開催・運営となります。

4. HACCPコーディネーターおよびリード・インストラクターとは

「HACCPコーディネーター」とは、食品企業等のHACCPチームのリーダーとなり、HACCP計画の策定、運用、検証などの指揮を執る立場の人材を意味します。

日本HACCPトレーニングセンター(JHTC)では、このHACCPコーディネーターを養成のためにコーデックス委員会および米国NACMCFのガイドラインに沿ったワークショップを行い、JHTCが認定したインストラクターによる講義と指導、そしてロールプレイング演習を通してHACCP計画の作成、システム運用のための基礎技術を修得していただいた受講者を「JHTC認定HACCPコーディネーター」と位置づけています。

「JHTCが認定したインストラクター(JHTC認定リード・インストラクター)」とは、コーディネーター養成コースの受講者、あるいはそれ相当の知識と経験を有する者が、IHA(国際HACCP同盟)とNFPA(全米食品加工協会)の教育機関であるFPI(Food Processors Institute)による“Train-the-Trainer/HACCP Course”を受講した上で、JHTC認定委員が過去のHACCPに関する講師経験、及びHACCPに関する知識・経験等をさらに審査し、所定の手続きを経て「JHTC認定HACCPリード・インストラクター」として認定・登録されます。

5. 補足説明

1. コーデックス(Codex)委員会とは?

コーデックス・アリメンタリウス(Codex Alimentarius)の略で、ラテン語で「食品基準」の意味である。 1962年FAO(国連食料農業機構)とWHO(世界保健機構)によって設置された。 WTOの前身のGATTでは、「貿易の技術的障壁に関する協定(TBT協定)」、「衛生および食物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定))の2つの協定が合意された。

これらの協定では、食品の安全性や技術的なことに関する国内基準は、原則としてコーデックス委員会の策定する国際基準に整合化することが規定されている(ハーモナイゼーション)。 食品の安全性に関する基準としては、「HACCPシステムとその適用のガイドライン(Hazard Analysis and Critical Control Point(HACCP)System and Guidelines for its Application)」の添付書類を含む「食品衛生の一般的原則(CAC/RCP1-1969)」が示されており、その基準をもとに各国でHACCPシステムが構築されている。

2. NACMCFとは?

NACMCF(National Advisory committee of Microbiological Criteria on Foods、食品微生物基準諮問委員会)とは、1987年にUSDA・FSIS(米国農務省食品安全検査局)、NMFS(米国水産局)、FDA及び米国陸軍Natick技術開発研究所の4つの政府機関ならびに大学や民間の専門家から構成され設置された組織で、1989年に、この委員会から米国におけるHACCPシステムのガイドラインともいうべき報告書が提出された。 ここで初めてHACCPの7原則が示され体系的なものとなった。1992年には食品企業を対象にしたこのガイドラインの修正文書が公表された。

米国ではこのガイドラインに基づいた法的強制力のある衛生監視法がFDAから魚介類の加工・輸入時の安全性確保、USDAから食肉,食鳥肉とそれらの製品の取り扱いに関してHACCPシステム適用が義務付けされた。 その他の国々においてもHACCPシステムに対する関心は高く,ICMSF(国際食品微生物規格委員会)ではHACCPシステムの検討委員会を設置し、1980年にはWHOと合同で「食品衛生におけるHACCPシステム」と題する報告書をまとめ、このシステムが将来の食品の微生物管理の方向を示すものであると勧告した。

そして1988年には、ICMSFからWHOに対して国際規格にHACCPの導入が勧告され、このシステム実施のための基本と応用が一冊の本にまとめられ、1993年にはCodexにより、米国のNACMCFの報告書と基本的に同じ内容のシステム適用のためのガイドラインが示された。